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2019年12月の記事一覧

地学部 長瀞巡検

私たちは、11月24日日曜日に、長瀞で巡検(フィールドワーク)を行いました。

長瀞周辺の地形図はこちら(外部リンク)

長瀞は、埼玉県秩父地方にある、言わずと知れた観光地です。一般には、かき氷屋さん、ライン下り、岩畳などで有名ですね。地学の分野でも、長瀞は重要な場所です。当日は、雨の予報でしたが、幸運にも雨は朝までに止み、良い天気のもとで行えました。

↑甌穴のある場所(後述)から見た荒川。奥が上流―秩父市街地方面、中央の山は破風山。左下にライン下りの船がちょうど川下りしているが、今朝までの雨で川の水は茶色く濁っている・・・


秩父鉄道上長瀞駅に集合後、初めに荒川の河原に降り、周辺にある岩石の観察をしました。なお、今回回った場所は、地形図の通り上長瀞~親鼻周辺であり、岩畳のほうではありません。岩畳はこれより1.5kmほど下流にあります。

 下の写真には緑色っぽい岩がたくさん写っていますが、これは緑色片岩という岩で、岩畳の岩と同じ岩です。緑色片岩は、結晶片岩の一種で、玄武岩、凝灰岩、砂岩等さまざまな岩石が変成作用(200~500℃の温度と2*103bar~104barの圧力)を受けてできた変成岩です。身近なところだと日本庭園の庭石によく使われます。

参考情報1―――――――――
変成作用とは、地中深くで岩石に温度や圧力が加わることによって化学変化が起き、違う岩石(変成岩)になることで、ほとんど固体の状態のままで変化します。
結晶片岩は、薄く板状にはがれやすいことが特徴で、広い範囲で起こる変成作用によってできた岩、つまり広域変成岩の一種です。分類を整理すると 岩石->変成岩->広域変成岩->結晶片岩->緑色片岩 となります。
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なお長瀞は、中央構造線の南側にある、三波川変成帯という関東~九州の長さ1000kmの結晶片岩を主とする変成帯(変成岩が帯状に分布しているところ)にかかっていて、岩畳や下の写真の緑色片岩はこれが地表に露出したものです。広域変成作用は、プレートに関連して起こることが多いので、変成帯もプレート(フィリピン海プレート)の境界にそってあります。

参考情報2―――――――――
三波川は群馬県藤岡市を流れていて、埼玉県/群馬県の県境にある下久保ダム(利根川水系)の少し北にあります。このダム湖である神流湖には、どこかで聞いたような名前の「ひょうたん島」という無人島があり、実は海無し埼玉県にも島はあります。
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↑荒川の河原。奥に見えるのが、秩父鉄道の鉄橋(奥が上流側)。川の水面は中央左に少し見えるが、やはり水は茶色・・・

下の写真は、虎岩と呼ばれている幅15mほどの岩です。虎の模様に似ているのでそのような名がついています。しましまの黒い部分は結晶片岩(スティルプノメレン)で、緑色片岩に似ていますが、より高温高圧にさらされているので、褐色です。白い部分は主に方解石で、岩の割れ目を埋めた部分です。地中深くで高圧を受けて折り重なったためにこのような模様になっています。

虎岩では、このしましま模様以外にも、小褶曲や黄鉄鉱を観察できました。褶曲というのは圧力を受けて地層がぐにゃっと曲がっていることです。黄鉄鉱は鉄と硫黄からなる鉱物で、金色っぽく見えるのでよく砂金と間違えられます。

↑虎岩。

 また、この虎岩がある河原の入り口には、下の写真の通り歌碑があります。これには、「銀河鉄道の夜」「春と修羅」等の作品で有名な宮沢賢治が、自らが所属する盛岡高等農林学校の巡検で、1916年に訪れた際に虎岩を詠んだ歌

つくづくと「粋なもやうの博多帯」荒川ぎしの片岩のいろ

 が刻まれています。

↑宮沢賢治の歌碑(写真は一部加工しています)

次に、やや上流へ移動し、ポットホールの観察をしました。ポットホールとは、甌穴(おうけつ)とも呼ばれ、岩の割れ目やくぼみなどに石が入り、中でそれが水流によって転がり、周りを削っていって大きくなった穴です。今この場所は川面よりかなり高い位置にありますが(左上に河原が見えます)、昔々は川底だったということです。甌穴は、長瀞以外でも全国各地でみられますが、長瀞にあるものは他と比べて大きめです。

またここには、珍しく貴重な岩石である紅簾片岩があります。これも結晶片岩で、紅簾石、石英、白雲母等が含まれていて、紅簾片岩自体はチャート、マンガンがもとになっているようです。この写真ではあまりきれいに見えませんが、本当は美しい赤っぽい色なので、建材に多く使われます。

↑ポットホールと紅簾片岩。左上の人間との大きさに注目

↑紅簾片岩

参考情報3―――――――――
上の2枚の写真ではレンガや加工された岩などの人工物が見えますが、ここには2代目の親鼻橋(1902~1956)の橋脚があったようです。3代目である現在の親鼻橋(1957~)が完成した後撤去されましたが、このように旧橋の痕跡がいくつかあります。
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また、この付近には秩父鉄道の荒川橋梁(最初の画像で奥に写っている)があり、ちょうど石灰石を積んだ貨物列車が通過するところを見られました。この石灰石は、群馬県多野郡神流町の叶山鉱山で採掘されたものと思われます(武甲山のほうは本日休み?)。この後、熊谷にあるセメント工場に運ばれ、セメントの材料として使われるようです。

↑先ほどからちらっと出てきている荒川橋梁。貨車に積まれている白い3つの山が石灰石。


 秩父農協の直売所で昼食後、先ほどのポットホールの対岸で、砂金採りをしました。砂金が重いことを利用して、溝が掘られている皿(パンニング皿)に川の砂を水ごといれたものを振る→砂利と水をこぼす→水を入れる→皿を振る・・・を繰り返し(パンニング)ていくと、溝に砂金がたまることがあります。当然、簡単に金が手に入るわけはないので、砂金はなかなか採れず、採れても小さな粒1~2こぐらいです。全員で一生懸命パンニングをして、残った砂ごと持ち帰り、ただいま部活で観察しています。見つかったらここに追記します。

 

 ↑一生懸命砂金を探している部員たち。彼らが持っている黒いものがパンニング皿。

最後に、上長瀞駅近くの県立自然の博物館を見学しました。(ネタバレになりそうなので、内容と写真の掲載は控えます。気になった人は実際に現地へ行って見学してください)

↑窓ガラス越しに微妙に見えるサメのようなものはカルカロドンメガロドン。左右上の窓ガラスに貼ってある2羽の鳥はオオタカ?

この後、長瀞駅に到着し、巡検は無事終了しました。


 今回の巡検では埼玉県民にとって身近な長瀞についてよく勉強できました。理科の教科書にはハワイや釧路湿原、富士山など有名な場所ばかり載っていて、長瀞を扱っているものはあまりないですが、このような場所こそ調べてみると面白いことがいろいろ見つかります。皆さんも、長瀞をただの観光地としてではなく、地学の観点で見に行ってはどうでしょうか。もちろん、埼玉県には長瀞以外にも興味深い場所はたくさんあります。地学部は、これからもいろいろな場所に巡検に行く予定です。