校長日誌
大阪城に響け、伽乱堂の心
放課後の校舎に溶け込んでいたあの練習の音が、ついに全国の舞台へと繋がりました。フォーク部「伽乱堂」の皆さん、「第19回全国高等学校軽音フェスティバル in 大阪城」への出場決定、本当におめでとうございます。
音楽は不思議なものです。一人で奏でる音も美しいけれど、仲間と呼吸を合わせ、試行錯誤を繰り返して生まれたハーモニーには、聴く者の心を揺さぶる「体温」が宿ります。皆さんが今日まで、互いの感性をぶつけ合い、時に悩みながら磨き上げてきた時間は、何物にも代えがたい財産ですね。
自分たちの表現を自分たちの手で形にしてきた皆さんの歩みこそ、誇るべき努力の結晶です。6月の大阪。結果を恐れず、まずは自分たちが一番にその演奏を楽しんでください。皆さんの奏でる一音が、大阪城の空へ、そして聴く人の心へ真っ直ぐに届くことを確信しています。
さあ、最高のステージを!
北欧の地へ
本校から一名、合唱団に加わり、フィンランドへ旅立つ生徒がいる。 総勢41名。小学生から大学生までという、普段の学校生活ではまず交わることのない大きな家族のような集団の中で、彼女の旅が始まる。目指すのは、ヘルシンキからさらに北へ向かった「北の入り口」オウルだ。 五月の北欧は、長く厳しい冬が明け、木々が一斉に芽吹く生命力に溢れた季節。その雄大な自然の中で、彼女を待っているのは心温まるホームステイと、音楽を通じた出会いだ。
言葉も文化も異なる家庭に、一人の家族として迎え入れられる。 最初は戸惑うかもしれない。けれど、ホストファミリーが差し出してくれる温かなスープや言葉を超えて通じ合う微笑みに触れたとき、彼女は知るだろう。 世界は広く、そしてどこまでも温かいということを。
オウルの街にあるカルヤシルタ大聖堂。 その荘厳な空気の中で、仲間と呼吸を合わせて賛美歌やわらべ歌を響かせる。 自分とは違う年齢、違う考えを持つ仲間と声を重ね、見知らぬ誰かのために一生懸命に歌う。その瞬間に生まれるハーモニーは、技術を超えた「心の対話」そのものだ。
一人で飛び込んだからこそ(本校出身の大学生がいるようだが)、見えてくる景色がある。 フィンランドの豊かな自然と、人々の素朴で力強い優しさに触れ、彼女の感性は色鮮やかに塗り替えられていくだろう。
「次はどんな発見があるだろう?」そんなワクワクするような好奇心とともに、この七日間を全力で楽しんできてほしい。 帰国した彼女が、北欧の風をまとって、そして明るい笑顔で、たくさんの「新しい私」について語ってくれる日を、今から楽しみにしている。
【全日制】令和8年度 入学式式辞
武蔵野の面影を残すここ所沢の地に、春の息吹が力強く感じられる今日この頃。本日、ここに保護者の皆様のご列席を賜り、令和八年度埼玉県立所沢高等学校入学式を挙行できますことは、本校教職員一同、大きな喜びであります。ただいま入学を許可いたしました357名の新入生の皆さん、入学おめでとうございます。難関を突破し、自らの意志でこの「所高」の門を叩いた皆さんの瞳には、未来への希望と、少しの緊張が宿っていることでしょう。皆さんの入学 を、心から歓迎いたします。
(混迷の時代を生きるということ)
さて、皆さんが今日から踏み出すこの三年間は、どのような時間になるでしょうか。 目を外に向けると、現代社会はまさに「正解のない問い」に溢れています。加速する気候変動、絶えない紛争、そしてAI技術の爆発的な進化。数年前の常識が、翌日には塗り替えられるような、混沌とした時代を私たちは生きています。
「自分一人に何ができるのか」——そんな無力感に襲われることもあるかもしれません。しかし、私は確信しています。この混沌とした課題を解決する鍵は、既存の枠組みに囚われない、若い皆さんの瑞々しい感性と、自由な発想の中にこそあるのだと思います。
(三年後に手にする「力」とは)
私はここで、皆さんに問いかけます。「三年後、皆さんはどんな姿でこの所高を巣立っていきたいですか」本校が皆さんに期待するのは、単なる知識の習得ではありません。この三年間で、以下の三つの力を磨き上げてほしいと願っています。
1「思考力」と「創造力」: 溢れる情報に流されるのではなく、「なぜ?」と問い直し、自分なりの答えを紡ぎ出す力です。
2「多様性を認める寛容さ」 異なる背景や意見を持つ他者と対話し、摩擦を恐れずに協働する力です。
3「自律的に行動する力」 所高の伝統である「自主自立」を体現し、自分の人生の責任を取る勇気です。
これらは、AIには代替できない、人間ならではの力です。
(所高という「実験場」を遊び尽くせ)
所沢高校は、自由な校風で知られています。しかし、ここでの「自由」とは、単に何でもしていいということではありません。「自ら考え、判断し、その結果に責任を持つ」という、厳格な自己規律を伴うものです。失敗を恐れないでください。この三年間を、人生の壮大な「実験」の場だと捉えてください。行事で、部活動で、そして日々の授業で、大いに議論し、ぶつかり合い、時には挫折するかもしれません。その試行錯誤のプロセスこそが、不透明な世界を生き抜くための、皆さんだけの武器になるはずです。
(結びに)
保護者の皆様、お子様のご入学、誠におめでとうございます。大切なお子様を、本日より本校でお預かりいたします。私たち教職員一同、一人ひとりの個性を尊重し、その可能性を最大限に引き出すべく、全力で支援してまいる所存です。家庭と学校が手を取り合い、共に成長を見守っていければ幸いです。
新入生の皆さん。皆さんの発想が、誰かを救う手助けになるかもしれません。皆さんの言葉が、世界を変えるきっかけになるかもしれません。今日から始まる三年間が、皆さんの人生にとって最も熱く、最高の時間となることを心から祈念し、式辞といたします。
令和8年4月吉日
埼玉県立所沢高等学校 校長 井上 輝也
【定時制】一杯の水から未来を編む
定時制の令和8年度 始業式 校長講話です。
皆さん、こんばんは。新しい年度の始まりに、まず皆さんに一つの問いを投げかけたい。今、私の手元には、何の変哲もない「一杯の水」があります。ただの無色透明な液体です。
しかし、皆さんがこれまで勉強してきた、あるいはこれから勉強する「知識」を使うと、この水の見え方は変わります。想像してみてください。
ある者にとって、これは渇いた喉を潤すだけの飲み物かもしれません。しかし、世界に目を向ければ、この一杯が手に入らないために命を落とす子どもたちがいる。その現実に気づくのは「社会」の視点です。あるいは、この水を分子レベルの化学式 H2Oとして捉える感性。その構造を理解し、応用する力が、やがて難病に苦しむ母親を救う新薬の開発へと繋がるかもしれない。それは「科学」が持つ可能性です。たった一杯の水から、アフリカの荒野を、あるいは白衣を着て試験管を振る将来の自分を連想できるでしょうか?
この「連想する力」こそが、学びです。学びとは、単に知識を詰め込む作業ではありません。目の前にある学びが将来の大きな職業に繋がる可能性があります。知識があるからこそ、私たちは「今、ここ」という狭い教室から抜け出し、遠く離れた誰かの痛みに共感できるのです。すばらしいと思いませんか?
定時制で学ぶ皆さんは、日中、社会の厳しい現実に身を置いている者も多いでしょう。仕事で流す汗、人間関係の葛藤。それらも尊い経験で学びです。そこへ「学校での学び」も加えてほしいと思います。知識は、皆さんの進路選択の幅を広げる武器になります。「これしかできない」というより「これも、あれもできる」に変えてくれるのが学びです。
一杯の水からたくさんのストーリーを連想できる豊かな想像力があれば、皆さんの未来はどこまでも広がっていきますよ。この一年、もちろん楽しく勉強して、可能性を広げて、未来をさらに明るくしましょう。
令和8年度が始まります。みんなで先生たちと一緒に新しい一歩を踏み出しましょう。
【始業式から】自ら環境を創り、共に高め合う1年へ!
皆さん、おはようございます。令和8年度が始まりました。
新しい年度のスタートにあたり、まず皆さんに問いかけます。「この一年、君たちは、何を大切にして過ごしますか?」目標を持たず、なんとなくスタートを切るのはやめましょう。目的地がなければ、1学期の終わりには迷いが生じ、2学期には「環境が悪い」「やる気が出ない」といった言い訳が顔を出し始めます。時間は、誰に対しても平等です。だからこそ、まずは「何を、いつまでに達成するか」という目標を、自分の中に強く描いてください。
【「誰かのために」という力の源泉】
さて、今日はもう一つ問いかけがあります。 「自分のために頑張る人と、誰かのために頑張る人。どちらの成功率が高いと思いますか?」
自分のためにストイックに努力する方が、一見効率的に見えます。しかし、トップアスリートや社会の第一線で活躍する人々は、必ずと言っていいほど「感謝」を口にします。これは単なる礼儀ではありません。彼らは、「周囲の応援をエネルギーに変える力」が、個人の実力を超える爆発的な力を生むことを、経験として知っているのです。
【バスケットボールの教訓から学んだ「環境」の本質】
私には、以前バスケットボールのコーチをしていた時の苦い経験があります。強豪チームとの練習試合で、相手のコーチからこう声をかけられました。 「同じ埼玉県同士、お互いに高め合おうよ」 その時、私はハッとしました。当時の私のチームは、勝ちたい一心でミスを恐れ、ピリピリとした空気の中で選手同士の会話もない、そういう環境で戦っていました。選手たちが持てる力を100%発揮できるような「いい環境」を、私自身が作れていなかったのです。
素晴らしい環境とは、誰かに与えられるものではありません。 皆さんが隣の席の仲間に、あるいはチームメイトに、どのような言葉をかけ、どのような視線を送るか。その小さな「工夫」の積み重ねが、君たち自身の成功を左右する「環境」を作っていくのです。誰かが整えてくれるのを待つのではなく、君たち自身の手で、互いを鼓舞し合える学校生活をプロデュースしてほしいと思います。
【今日から実行してほしい二つのこと】
そのために、今日から二つのことを意識してください。
一つ目は、応援の習慣を持つことです。 仲間の挑戦を笑わず誰かの成功を自分のことのように喜ぶ。人を応援する習慣がある人は、自分が苦しい時に人から応援されます。その応援こそが、君たちが折れそうな時の支えになります。
二つ目は、質の高い対話をすることです。 自分の意見をぶつけるだけの「言いっぱなし」は対話ではありません。特にうまくいっていない相手に対し、ダメ出しをするだけでは進歩はありません。「相手に何を気づいてほしいか」を考え、相手の言葉を聴き、どうすれば「良い結果」が生まれるのかを一緒に考える。この積み重ねこそが、チームを、そして自分自身を強くします。チームとはクラスや委員会も含まれます。
【本当の強さとは】
所沢高校が掲げる「自主自立」とは、決して「孤立」することではありません。仲間と対話し、支え合い、自分も強くなりながら、周囲をも強くしていく。それこそが、皆さんがこの一年で手に入れるべき本当の強さです。
隣にいる仲間は、蹴落とすべきライバルではなく、一緒に未来を切り拓く「パートナー」です。一人ひとりが誰かの応援団長となり、そして誰からも応援される存在へと成長することを期待しています。
一年間、みんなで一緒に頑張りましょう。