第56回卒業証書授与式

3月10日(月)、定時制課程にて第56回卒業証書授与式を挙行しました。校長先生から以下の祝辞をお贈りします。

 

式 辞


 3月は「やよい」です。漢字で「弥生」と書くとおり「イヤオイ」が転じたものです。「イヤオイ」とは、「ますます生まれ、ますます茂る」つまり、万物が新しく生まれいよいよ動き始める時期を意味します。この場に集う、秘めた思いや力を蓄えつつ、大きく飛躍しようとしている14名の卒業生の皆さんの姿そのものだと感じています。このよき日に、PTA会長様、学校評議員の南陵中学校・出井正之校長先生をはじめ、平素からお心を寄せていただいているみなさまとともに祝福できることを喜びたいと思います。
 卒業生の皆さん、ご家族・ご親族の皆様、ご卒業おめでとうございます。卒業される皆さんはもちろん、これまで卒業生を支えてこられたご家族・ご親族の皆様も、たいへんお喜びのことと存じます。
 先日「静かに閉じる扉」という見出しで「社会に出ると誰も注意をしてくれないだけで、許されているわけではない。そして、あなたが気付いていない扉が、音もなく閉じている」という新聞記事(2025年2月21日埼玉新聞「弁護士ときどき記者」)を読みました。筆者はもともと新聞記者、会社を退職し司法試験に挑戦、弁護士になった人です。記者時代には上司から厳しく指導されたそうですが、弁護士は新人であっても「先生」と呼ばれ、自主性を重んじられる職業です。依頼人も自分に有利に働きかけてもらい刑を軽くしてもらおうとお世辞を言うこともあります。捕まることに慣れた海千山千(=長い年月にさまざまな経験を積んだずる賢くしたたかな人)の依頼人の誉め言葉を真に受け、自分が実力ある弁護士だと勘違いする落とし穴にはまりがちだというのです。
 いまは、弁護士に限らず自主性が重んじられ、会社でも学校でも厳しく指導されるスタイルは少なくなりました。「扉が閉まる」とは、相手からシャットアウトされることです。親しく仲良しと思っていた人が理由も告げず離れていく状況、自分の店に満足し何度も来てくれた客が突然来てくれなくなる状況、といえます。
 社会に出れば上下関係はありません。電車の中で傍若無人なふるまいをしている人を見ても、注意する人はごくまれで、スーッとほかの車両に移る行動をとる人が圧倒的に多いはずです。反撃されるリスクをおかしてまで注意するという人はまずいません。自分に悪影響が降りかからないよう無言で離れていくだけです。誰からも注意を受けないのは、許されているからではないと知らなければなりません。自分自身を検証し反省しなければならないのです。
 これまでも中学生から高校生へと肩書きが変化したり、学ぶ学校システムや学業の内容が変わったりしましたが、生徒であるということは変わりませんでした。十八歳になれば成年として扱われるはずですが、実際のところは保護者ではなくなったはずの保護者のかたや先生方が気にかけて守ってくれました。しかし、きょうを機会にこのような配慮を受ける対象から外れることになります。高校を卒業すると、社会はおとなとしてあなたを見るようになり、あなたを注意してくれる人はいなくなるかごく少なくなるはずです。
 学校では、注意されると「そんなこと言われたことなかった!」と言って自分の行為を正当化し「逆切れ」する生徒も見てきました。初めて注意されたなら、逆切れするのではなく、はっきり教えてくれたことを感謝しなければいけません。その人も、注意しようかどうしようかと悩んだはずですから。
 これまで、高校という教育システムをはじめ、社会人が支えている環境の中でさまざまな知識や能力を身に付けてきました。高校を卒業し社会人になるということは、その環境をつくりシステムを支える側の存在になるということです。
 一般的な高校とは少し違う高校生活となりましたが、定時制でなければ味わえない時間の流れがありました。先週金曜日の給食は卒業祝いのばら寿司でした。野に咲く菜の花に見立てた錦糸玉子をのせ、豪華にウナギ、お祝いらしく紅白のカニやイクラに見立て、将来を見通すようにとれんこん、若草色の絹さやなどが彩りよくのせられ、汁のなめこ(今回初めて知りました)花ことばは「幸運を祈る」だそうです。校章でもある三つ葉もあしらわれ、4年生の人柄にあわせたやさしい味わいに仕上がっていました。定時制に関係するすべての職員のお祝いの気持ちを表しています。
 保護者のみなさまには本日のお慶びとともに、これまで本校定時制にお寄せいただいた御厚情に感謝申し上げます。今後も、自ら考えて行動できる人物を育てるという期待に応え、教職員一同卒業生や生徒にとって心のよりどころと誇れる学校づくりに努めてまいります。
 定時制56期生の前途が健やかで幸多きことをお祈りし式辞といたします。

  令和7年3月10日              埼玉県立所沢高等学校長 内田 正俊